アベマシクリブ(ベージニオ®)は、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳癌に使用される経口CDK4/6阻害薬です。処方監査では、単に「150mgを1日2回」であることを確認するだけでなく、術後薬物療法なのか、手術不能・再発乳癌なのか、どの内分泌療法剤を併用しているかを確認することが重要です。また、開始早期に起こりやすい下痢、減量歴、CYP3Aに関係する相互作用も見逃せません。このページでは、保険薬局での監査ポイントを先に整理し、その後に治療背景、併用薬、代表的な副作用とフォローのポイントをまとめます。
最初に確認:治療場面・併用する内分泌療法・下痢対策
① 通常用量:内分泌療法剤との併用で、1回150mgを1日2回。
② 術後薬物療法:HR陽性・HER2陰性の再発高リスク乳癌に使用し、ベージニオ®の投与期間は24カ月まで。
③ 手術不能・再発乳癌:アロマターゼ阻害薬やフルベストラントなど、併用している内分泌療法剤を確認。院外処方箋にベージニオ®だけが記載されていても単独療法とは限りません。
④ 100mg・50mg処方:副作用による減量の可能性があるため、直前の下痢、骨髄抑制、肝機能障害、休薬・再開指示を確認します。
⑤ 初回・再開時:下痢は開始早期に起こりやすいため、排便回数、ロペラミド等の処方・手持ち、飲水可能量、緊急連絡先を確認します。
監査ポイント 用量・減量 治療背景 併用薬 代表的な副作用 早急に連絡する症状
1.処方を受け付けたら確認すること
- 対象となる乳癌:ホルモン受容体陽性かつHER2陰性であることを確認する。
- 治療場面:「手術不能・再発乳癌」か「再発高リスク乳癌の術後薬物療法」かを確認する。
- 併用する内分泌療法剤:アロマターゼ阻害薬、フルベストラント、タモキシフェン、LH-RHアゴニストなどの併用状況を確認する。注射薬や他院処方は、院外処方箋に現れない場合がある。
- 用量:通常は1回150mgを1日2回。100mg又は50mgでは、副作用による減量、休薬後の再開など治療経過を確認する。
- 術後薬物療法の期間:開始日を確認し、ベージニオ®の投与期間が24カ月を超えていないかを確認する。
- 下痢:治療前の排便回数から何回増えたか、夜間排便、腹痛、発熱、血便、飲水・食事、尿量、止瀉薬の使用状況を確認する。
- 検査・重篤な副作用:血球数、AST・ALT・総ビリルビン、咳・息切れ・発熱、片脚の腫れや疼痛、突然の呼吸困難などを確認する。
- 相互作用:CYP3A阻害薬・誘導薬の追加、グレープフルーツ又はグレープフルーツジュースの摂取を確認する。
ベージニオ®は、内分泌療法剤との併用で使用します。処方箋にベージニオ®だけが記載されている場合でも、病院内でフルベストラントやLH-RHアゴニストの注射を受けている、又は別の処方箋で内分泌療法剤が処方されている可能性があります。「ベージニオ®単独」と判断せず、患者への聞き取り、治療施設のレジメン情報、お薬手帳、トレーシングレポート等から治療全体を確認します。[1:4~7項]
2.用量・休薬・減量を確認する
| 減量レベル | 1回量 | 1日の服用 | 薬局での確認 |
|---|---|---|---|
| 通常投与量 | 150mg | 1日2回 | 初回処方では、治療場面、併用内分泌療法、下痢への初期対応を確認する。 |
| 1段階減量 | 100mg | 1日2回 | 減量理由、休薬期間、症状・検査値の回復、再開日を確認する。 |
| 2段階減量 | 50mg | 1日2回 | さらに減量が必要な副作用が生じた場合の方針を治療施設と共有する。 |
服用は1日2回です。電子添文では食前・食後の指定はありませんが、患者ごとの処方指示に従い、毎日おおむね同じ時間帯に服用できているかを確認します。飲み忘れた場合や服用後に嘔吐した場合は、自己判断で追加服用せず、次の予定時刻に通常の1回量を服用するよう、患者向け資材や治療施設の指示に沿って案内します。
2-1.主な副作用発現時の用量調節
| 副作用・程度 | 電子添文上の主な対応 |
|---|---|
| 下痢:Grade 2で24時間以内に回復しない | Grade 1以下まで休薬し、回復後は同じ用量で再開する。 |
| 下痢:治療しても続くGrade 2、又は減量せず再開後に再発したGrade 2 | Grade 1以下まで休薬し、1段階減量して再開する。 |
| 下痢:入院を要する、又はGrade 3・4 | Grade 1以下まで休薬し、1段階減量して再開する。 |
| 血液毒性:Grade 3初回 | Grade 2以下まで休薬し、回復後は必要に応じて1段階減量する。 |
| 血液毒性:Grade 3の2回目以降又はGrade 4 | Grade 2以下まで休薬し、1段階減量して再開する。 |
| 持続・再発するGrade 2又はGrade 3のAST・ALT増加 | ベースライン又はGrade 1以下まで休薬し、1段階減量して再開する。 |
| Grade 2以上のAST・ALT増加かつ総ビリルビンが基準値上限の2倍超 又はGrade 4のAST・ALT増加 | 投与を中止する。 |
| 間質性肺疾患 | ベージニオ®による間質性肺疾患と診断された場合は投与を中止する。 |
| 静脈血栓塞栓症:Grade 2~4 (術後薬物療法として使用時) | 投与中止、又は適切な治療を行い状態が安定するまで休薬する。再開時は必要に応じ1段階減量する。 |
上表は監査時に全体像を把握するための要約です。実際の休薬・再開・減量・中止では、最新の電子添文、CTCAEグレード、検査値、治療施設からの指示を確認してください。[1:7.2項]
3.治療背景を確認する
| 治療場面 | ベージニオ® | 薬局での確認ポイント |
|---|---|---|
| HR陽性・HER2陰性の 手術不能又は再発乳癌 | 150mg 1日2回 内分泌療法剤と併用 | 内分泌療法歴、現在の併用薬、閉経状況、注射薬の有無を確認。病勢進行又は継続困難な副作用が認められるまで継続されることがある。 |
| HR陽性・HER2陰性で 再発高リスクの乳癌における術後薬物療法 | 150mg 1日2回 最長24カ月 | 手術後であること、再発高リスクの背景、開始日・終了予定、併用内分泌療法、化学療法・放射線療法歴を確認する。 |
3-1.術後薬物療法では「再発高リスク」と投与期間を確認する
術後薬物療法の対象は、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌です。電子添文に掲載されたmonarchE試験コホート1では、次のいずれかに該当する患者が再発高リスクと定義されました。[1:5.2・17.1.3項]
monarchE試験コホート1における再発高リスクの定義
① 病理検査で、同側腋窩リンパ節転移陽性が4個以上
② 同側腋窩リンパ節転移陽性が1~3個で、かつ次のいずれか
・原発腫瘍径5cm以上
・組織学的グレード3
薬局で病理学的情報をすべて把握できない場合でも、術後であること、治療開始日、24カ月の予定期間、過去の化学療法・放射線療法を確認しておくと、長期継続時の監査に役立ちます。なお、ベージニオ®の術前薬物療法としての有効性・安全性は確立していません。[1:5.1・6項]
3-2.手術不能・再発乳癌では内分泌療法歴を確認する
手術不能・再発乳癌では、これまでの内分泌療法歴や閉経状況などに応じて、アロマターゼ阻害薬又はフルベストラント等と併用されます。院外処方箋に併用薬が見当たらない場合は、注射薬として院内で投与されていないか、別医療機関・別処方で処方されていないかを確認します。
4.併用する内分泌療法剤を確認する
| 内分泌療法剤 | 主な治療場面 | 薬局で確認すること |
|---|---|---|
| レトロゾール アナストロゾール等 アロマターゼ阻害薬 | 手術不能・再発乳癌 術後薬物療法 | 関節痛、骨密度・骨折リスク、ほてり、アドヒアランス。閉経前では卵巣機能抑制療法の有無も確認する。 |
| フルベストラント | 主に手術不能・再発乳癌 | 院内での注射日、注射部位症状、これまでの内分泌療法歴。処方箋に記載されない併用薬として特に見落としやすい。 |
| タモキシフェン | 術後薬物療法等 | ほてり、不正性器出血、血栓症を疑う症状。ベージニオ®にも静脈血栓塞栓症のリスクがあるため、片脚の腫れ・疼痛、突然の胸痛・呼吸困難に注意する。 |
| LH-RHアゴニスト | 閉経前患者の卵巣機能抑制 | 注射日、投与間隔、ほてり・発汗、月経状況。院内投与のため、院外処方箋には記載されない場合がある。 |
実際に選択される内分泌療法剤は、治療場面、閉経状況、既治療、再発リスク等により異なります。上表は代表例であり、個別患者では治療施設のレジメンと最新のガイドラインを確認してください。MONARCH 2試験ではフルベストラント、MONARCH 3試験ではレトロゾール又はアナストロゾール、monarchE試験ではタモキシフェン、アロマターゼ阻害薬等が使用されました。[1:17.1.1~17.1.3項]
4-1.相互作用で確認したいポイント
- CYP3A阻害薬:イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ジルチアゼム、ベラパミル等ではアベマシクリブの血中濃度が上昇するおそれがある。できる限り併用を避け、やむを得ない場合は減量の要否と副作用を確認する。
- グレープフルーツ/グレープフルーツジュース:本剤服用時は飲食を避ける。
- CYP3A誘導薬:リファンピシン、フェニトイン、カルバマゼピン等では血中濃度が低下し、効果が減弱するおそれがある。CYP3A誘導作用のない薬剤への代替を検討する。
- 新規処方・他科受診:抗菌薬、抗真菌薬、抗てんかん薬、循環器用薬が短期間追加された場合も、お薬手帳を用いて確認する。
5.発生しやすい副作用と薬局での確認項目
副作用の頻度は治療場面、併用する内分泌療法剤、評価集団によって異なります。電子添文に掲載されたMONARCH 2、MONARCH 3、monarchE試験では、下痢は約8割に認められました。以下では、代表的な副作用と薬局で確認したい内容を整理します。[1:11・17項]
| 副作用 | 頻度・特徴の目安 | 薬局で確認すること |
|---|---|---|
| 下痢 | 主要3試験で78.9~80.0% Grade 3以上の重度の下痢:7.5% | 治療前からの排便増加数、夜間排便、水様便、腹痛、発熱、血便、飲水・食事、尿量、体重、止瀉薬の開始時期 下痢のCTCAEグレード評価と対応を見る |
| 好中球減少・白血球減少 | 好中球減少:42.2% 白血球減少:32.0% | 採血結果、発熱、悪寒、咽頭痛、咳、排尿時痛などの感染症状。発熱時は次回受診まで待たず連絡する。 |
| 悪心・腹痛・食欲減退・口内炎 | 悪心・腹痛は20%以上 食欲減退・口内炎は5~20%未満 | 食事・飲水量、口腔内の痛み、制吐薬、体重減少、脱水。下痢を伴う場合は全身状態の悪化に注意する。 |
| 疲労 | 20%以上 主要3試験で29.2~31.8% | 日常生活への影響、食事・睡眠、貧血、発熱、脱水、肝機能障害を疑う症状。 |
| 貧血・血小板減少 | 貧血:19.1% 血小板減少:11.0% | 息切れ、動悸、強い倦怠感、あざ、鼻出血・歯肉出血、採血結果。 |
| 肝機能障害 | ALT増加:8.1% AST増加:7.9% | 採血結果、黄疸、褐色尿、食欲低下、悪心、強い倦怠感。 |
| 脱毛症・発疹 | 5~20%未満 | 外見・生活への影響、皮疹の範囲、そう痒、疼痛、感染兆候、スキンケア。 |
| 血清クレアチニン増加 | 5~20%未満 | 開始前後の推移、脱水の有無、尿量、他の腎機能指標。数値上昇を直ちに糸球体機能低下と断定しない。 |
| 間質性肺疾患 | 1.2% 死亡例の報告あり | 新たな咳、息切れ、発熱、SpO2低下。疑われる症状があれば休薬の要否を含め、速やかに治療施設へ連絡する。 |
| 静脈血栓塞栓症 | 1.7% | 片脚の腫れ・疼痛・熱感、突然の息切れ・胸痛、頻脈。タモキシフェン併用時や術後薬物療法でも注意する。 |
6.アベマシクリブで押さえておきたい特徴
6-1.下痢は「開始早期」と「初期対応」が重要
下痢はアベマシクリブで特に頻度が高く、主要臨床試験における初回発現時期の中央値は投与開始後6~8日でした。初回交付時には、下痢が起きてから相談するのではなく、あらかじめ止瀉薬の有無と服用方法、飲水、連絡基準を確認します。排便回数は「1日何回」だけでなく、治療前より何回増えたかを聞くとCTCAE評価につなげやすくなります。[2]
薬局で特に連絡を考える下痢
・Grade 2相当の下痢が24時間以内に回復しない
・止瀉薬を使用しても続く、又はいったん改善後に再発する
・水分が取れない、尿量が減った、ふらつく、強い倦怠感がある
・発熱、強い腹痛、血便を伴う
・夜間も頻回で、日常生活への影響が大きい
下痢の重症度や持続時間によっては休薬・減量が必要です。患者へ一律に自己判断で服用継続又は中止を指示せず、事前に示された治療施設の指示に従い、必要時は次回服用前に確認します。
6-2.血清クレアチニン上昇は腎機能低下とは限らない
アベマシクリブは腎尿細管のトランスポーターを阻害し、糸球体機能に影響を与えずに血清クレアチニン濃度を上昇させることがあります。そのため、投与開始後のクレアチニン上昇だけで腎機能悪化と断定しないことが重要です。一方で、下痢・食欲低下による脱水や、併用薬による腎障害が否定されるわけではありません。体重、尿量、BUN、電解質、必要に応じてシスタチンCなど、他の情報と合わせて評価します。[1:12項、3]
6-3.咳・息切れ・発熱は間質性肺疾患を疑う
アベマシクリブでは、間質性肺疾患による死亡例も報告されています。風邪のように見える症状でも、治療開始後の新たな咳、息切れ、発熱、酸素化低下があれば、次回受診まで様子を見ず、ベージニオ®服用中であることを伝えて速やかに治療施設へ連絡します。本剤による間質性肺疾患と診断された場合は投与中止となります。[1:1.2・1.3・8.2・11.1.4項]
6-4.片脚の腫れと突然の息切れは血栓症を疑う
深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈血栓塞栓症が報告されています。片脚だけの腫れ、痛み、熱感、皮膚色の変化、又は突然の呼吸困難、胸痛、動悸がある場合は早急な評価が必要です。内分泌療法剤としてタモキシフェンを併用している場合も、血栓症を疑う症状を継続的に確認します。[1:7.2・11.1.5項]
7.早急に治療施設へ連絡する症状
- 新たな息切れ、咳、発熱、呼吸困難、SpO2低下
- 片脚の腫れ・疼痛・熱感、突然の胸痛・息切れ・頻脈
- 発熱、悪寒、強い咽頭痛など骨髄抑制に伴う感染を疑う症状
- 止瀉薬を使用しても続く下痢、24時間以内に回復しないGrade 2相当の下痢、水分が取れない状態
- ふらつき、尿量低下、著しい口渇など脱水を疑う症状
- 黄疸、褐色尿、強い倦怠感など肝機能障害を疑う症状
- 止まりにくい出血、広範囲のあざ、強い息切れ・動悸
急激で重い症状では救急対応を優先します。次回服用の可否を含めて治療施設へ速やかに確認し、施設から事前に示された緊急時・休薬時の指示があればそれに従います。
参考資料
1.日本イーライリリー株式会社「ベージニオ®錠50mg・100mg・150mg 電子添文」2021年12月改訂(第2版)。主に4~12、17項を参照。PMDA 医療用医薬品情報を開く
2.日本イーライリリー株式会社「ベージニオ®適正使用ガイド」。下痢の初回発現時期、間質性肺疾患を含む適正使用情報を参照。ベージニオ®適正使用ガイドを開く
3.日本イーライリリー株式会社「ベージニオ(アベマシクリブ)による血清クレアチニン濃度増加の機序は?」。医療関係者向け情報を開く
4.MONARCH 2試験、MONARCH 3試験、monarchE試験:電子添文17.1.1~17.1.3項を参照。
資料確認日:2026年9月12日。
本ページは薬局薬剤師向けの情報整理・実務支援を目的としています。個別患者の治療方針、休薬・減量・再開は、最新の電子添文・適正使用情報と処方元の指示をご確認ください。
